Rocket Lab社Electronロケット研究

超小型衛星専用打上げロケットとして商業運用開始を世界で最初に行おうとしているRocketLab社のElectronロケットがSpaceflight101.comというニュースサイトに出ていたので、ロケット技術の研究として、記事の翻訳(意訳)と技術的なことに関して簡単に公開情報から性能について研究してみた。

元記事

Electron

翻訳

ElectronはRocket Lab社によって開発されている商業用小型衛星打上げのための2段式ローンチビークル。
電動ポンプ式サイクルを採用した世界初のflight-readyなロケット。
500万ドル以下の打ち上げ価格でペイロードを低軌道に225キログラム、太陽同期軌道に150kgを打上げるサービスを提供。
Rocket Lab社は2006年に起業家Peter Beck氏によってニュージーランドに設立され(訳注:シードファウンダとしてMark Rocket氏がいる。Rocket氏はロケット好きがこうじて自分の名前をRocketにしたパワフルなIT企業系の起業家、http://www.markrocket.com/)現在米国に本社を置き、ニュージーランドに子会社を持ち、アメリカの旗の下で打上げる。(訳注:FAAの許認可などのことを指すと思われる) 同社のミッションは、現在、超小型衛星のオペレータがピギーバックとして打上げサービスを購入していてスケジュールと軌道についてロケット側に要望することが出来ていないという状況に対して費用対効果の高い商業打上げサービスを提供すること。
Electronロケット開発は、CubeSatのクラスターのような小さなペイロードを対象に、柔軟で既存の打ち上げシステム同等あるいはそれ異常に費用対効果の高いソリューションを創出することを前提に開始された。 主に太陽同期軌道をターゲットにしている。


Rocket Lab社のアドバンテージは、迅速に打上げスケジュールを組めることと、ペイロードとロケットとの統合を数時間で可能にする「プラグインペイロード」モジュール。
ロケットラボは2009年にÀtea-1(「Space for Maori」)を打上げた。これは宇宙の境界を横切る南半球の最初の民間企業になるためのサブオービタルミッション。Àtea-1は打上げを行ったがテレメトリシステムも回収システムも搭載していなかったために、実際の高度は不明。2号機以降は計画されなかった。

同社は、2010年12月に米国のOperation Responsive Space Office(ORS)から、超小型衛星用の低コストの打上げ機を研究する契約を結んだ。ロケットラボのプロジェクトの資金は、米国とニュージーランドの民間企業を通じて提供された。

また、DARPAと海軍系のONRGからのプログラムで1液のゲル状推進剤のロケットの開発と打ち上げ実験を行ったこともある。

エレクトロンの主な打ち上げ場所はニュージーランド北島のマヒア半島に位置し、太陽同期軌道を含む様々な軌道への打ち上げが可能。2015年にニュージーランド南島のKaitorete Spit自然保護公園を打上げ場所とする計画が上がったが、射場開発するのに必要な同意が得られなかったため、マヒア半島が同社の主要打ち上げ基地になった。 Kaitorete Spit自然保護公園は、ロケット生産工場の建設予定地であった南島で最大の都市であるクライストチャーチに近接していたために検討されていた。
マヒア半島の打上げ基地建設は、2015年12月に建設開始され、重量50トンの打ち上げプラットフォームとタワー、推進剤タンク、整備ハンガー、そしてその地域の道路と通信ネットワークをアップグレードするための支援施設がある。2016年6月までにインフラ整備が完了し、2016年9月26日にオープニングセレモニーが行われた。

Rocket Labは、定期的な打上げを確実にするために、エア・トラフィック・サービス・プロバイダーであるAirways New Zealandと打ち上げ現場周辺の特定空域に関する契約を締結した。マヒア半島からの打上げは、今後30年の期間で72時間に1回の最大打上げ機会でライセンスされていて、Rocket Labは実際の打上げは1週間に1つが平均だと考えている。マヒア半島から、Electronは39〜98度の軌道傾斜にペイロードを打ち上げることができる。
Rocket Labはまた、アラスカ航空宇宙公社が管理するPacific Spaceport Complex – Alaska(PSCA)からエレクトロンを打ち上げる計画。射場としてはケープ・カナベラルも検討されている。

Electronは2016年に領収試験を終了した。2017年初頭に飛行試験を行い、その後、商業打上げを行なう予定。 打ち上げ価格は、490万ドルと想定されている。 相乗りミッションは、需要に応じて四半期ごとに打上げられる予定で、価格は1UのCubeSatで77,000ドル、3UのCubeSatで240,000ドルから。 通常、CubeSat相乗りミッションは、2つの12U、4つの6U、3つの10U、4つの1Uスロットに分解された82 CubeSat Unitsの容量を持ち、総額650万ドルの打ち上げ価格。

Electronの仕様
全長 17m
直径 1.2m
全備重量 12,550kg
段数 2
ペイロード to LEO 225kg
ペイロード to SSO 150kg(500km SSO)
打上げコスト $4.9 Million

全長17m、直径1.2m、全部で10基のエンジンを搭載した2段液体の電動ポンプ軌道ロケット。最大150kgのペイロードを高度500kmの太陽同期軌道に打ち上げる。複合材料や3Dプリンタなどの技術を活用。高頻度で打ち上げるための効率的な製造システムを意識している。
ElectronはSpaceXのFalcon9と同様に1段目に9基の同一エンジン、2段に真空最適化した1基のエンジンを搭載。有名なニュージーランドの科学者であるEarnest Rutherfordにちなんで、ラザフォードエンジンと名付けている。
推進剤は液体酸素とケロシンのロケットで、炭素繊維複合材料を使用。オールコンポジット設計を特徴として強く軽量な構造にしている。極低温液体酸素で使用可能な炭素繊維複合材料タンクを開発した。

ラザフォードエンジン

ラザフォードは電動ポンプ式ロケットエンジン。液体酸素とRP-1(ケロシン)。1段目用と2段目の真空用ノズルをつけた2バージョンがある。
電動ポンプ供給サイクルを使用するエンジンで軌道投入されるのは初めてで、これはコスト削減し、製造を容易にするために選択された。エンジン燃焼室、インジェクタ、ポンプ、主推進剤バルブなど主要部品に3Dプリント。ラザフォードエンジン1基製造するのに24時間かかるという。ニッケル合金であるインコネルは耐圧・耐熱の関係からエンジン燃焼室とノズルに使用されている。
電動ポンプには1つのエンジンあたり2つのブラシレスDCモータを使用。缶ジュースサイズの小型モータは4万RPMで50馬力(37kW)。ガス発生器とタービンのシステムに比べて単純であるという利点がある。欠点はバッテリ重量である。
エンジンの冷却は再生冷却方式を採用。冷却液はRP-1。バッテリ抜きのエンジン重量は20kg。
電動ポンプの利点の一つはスロットリング能力の制御性。ガスジェネレータシステムではスロットリングするのは電動ポンプより複雑になる。電源はリチウムポリマー。2段で合計16個のバッテリーパックが搭載されている。
毎秒7kgの推進剤を消費。

1段目 2段目
全長 12.1 m 2.4 m
直径 1.2 m 1.2 m
ドライ重量 950 kg 250 kg
推進剤重量 9,250 kg 2,150 kg
推進剤 RP-1/LOX RP-1/LOX
タンク 複合材料 複合材料
エンジン 9基のラザフォードエンジン 1基のラザフォードバキューム
エンジンサイクル 電動ポンプ 電動ポンプ(真空仕様)
推力 16.89 kN / 20.33 kN 22 kN
打上げ時推力 152 kN
比推力 303 s 333 s
エンジン重量 20 kg程度 NA
燃焼時間 ~155 s ~320 s
タンク加圧 ヘリウム NA
制御 ジンバル制御 ジンバル制御+コールドガスRCS
シャットダウン コマンド方式 コマンド方式
段分離 空気圧アクチュエータ
1段目

1段目の全長12.1m、直径1.2m。ドライ重量は950kg。推進剤は9,250kg。Octawebと呼ばれる配置(SpaceXのFalcon9ロケット同様の配置)に9基のラザフォードエンジン。この配置はエンジンからの推力をロケットの構造に伝達するのに有利。
リフトオフ時に147kN(15,000kgf)の推力、空気が薄くなると183kN(18,700kgf)に上昇。2分半燃焼。1段目には13個のバッテリーが搭載。
飛行制御は9基のラザフォードエンジン全てをジンバリングすることで制御。
ヘリウムガスで加圧し、ステージ分離は空気圧駆動のアクチュエータで行われる。

2段目

2段目の全長2.4m、直径1.2m。ドライ重量250kg、複合材料を構造およびタンクに使用。2150kgの推進剤、5分半の燃焼時間。ラザフォードVacはIsp333秒、22kNの推力。3つのバッテリーパックを搭載、うち2つは途中でペイロード重量を増やすために途中で切り離される。バッテリーパックは自己着火温度が150度であるため、2段目の再突入時には全て燃え、1段目の電池もある程度燃えてしまう見込み。
姿勢制御はメインエンジンのジンバルとコールドガスジェットによる制御。
アビオニクスは社内開発のFPGAによるもの。ハードウェアを共通化しながらカスタマイズを容易にしている。

ペイロード・フェアリング

直径1.2m、高さ2.5mの複合材料製のフェアリング。フェアリングの展開は空気圧駆動のアクチュエータで分離。1段目分離後すぐに50kgのフェアリング質量をジェットソンする。
Rocket Labの主なセールスポイントの1つは、ロケットとペイロードの統合を簡素化する「Plug-In Payload」のコンセプト。顧客は、自分自身で衛星とペイロードモジュールの統合し、専用コンテナに入れてロケットラボの打ち上げ場所に運ぶ。ペイロードモジュールとElectronロケットの統合は数時間で完了する。この概念は、ペイロードとロケットの分類を望む衛星オペレータにとって特に興味深いものであり、米国政府のミッションのために必要なものである。

 

考察(不確定な想像)

ここからはニュースサイトの翻訳ではなく、技術的な部分の想像。

燃焼室圧力とIsp

公開されている値は1段目の比推力303秒と2段目の比推力333秒だけであり、1段目がなんの比推力か正確にわからないが、おそらく平均比推力だろう。NASA CEAよりLOX/RP-1のIspを見てみると、燃焼室圧力5MPa〜6MPa、Isp効率95%ぐらいだとそれっぽい値になりそう。電動ポンプ方式にしては燃焼室圧力が非常に高い印象で、Isp効率もかなり高い。エンジン開発は多くのノウハウの蓄積と十分な開発期間をかけていると想像できる。

ポンプについて

燃料のRP-1で再生冷却していることから、RP-1側の吐出圧は8〜10MPa程度か。これは流量と吐出圧とポンプのモーター出力から考えて、ギリギリ成立すると思われる。強力なブラシレスDCモータとそのモーターを制御する基板、モーターの冷却をキャンドポンプと呼ばれる方式で、推進剤自身にドブ漬けすることによって冷却することによって成り立たせている。優秀なパワー系電気技術屋がいることがわかる。

電池について

リチウムポリマー電池の典型的なエネルギー密度が200Wh/kg=720kWs/kg
電動ポンプのモーター出力が1つあたり37kWであり、燃料と酸化剤それぞれ1つづつあるので、37kW*2=74kW だと仮定すると、エネルギー密度と使用時間を考えてバッテリーパックあたり15kg(これは十分に電池容量を使い切る計算だが、現実的ではない、容量をすべて使い切るのは難しく実際は容量に余裕があるだろうが、燃料側のワット数は少ないはずなので、良いところだと思われる)
1段目の電池重量:15×13個=195kg
2段目の電池重量:15×3個=45kg
とすると、
1段目エンジン推重比:エンジン重量20kg+15kg=35kg、推力18.3kNより51
2段目エンジン推重比:エンジン重量20kg+45kg=65kg、推力22kNより33

バッテリー込だと推重比はあまり大きくない。しかし、ガスジェネレータサイクルエンジンなどに比べて比推力の低下無しにそこそこの推重比になっているので、トータルの性能としてはすばらしい。

システムについて

以上のことから、下記の通りだと想像される。
全段:重量12550kg
1段目:構造効率0.0975、⊿V=4.1km/s
2段目:構造効率0.10、⊿V=6.0km/s
2段目にほとんどの軌道速度を稼がせて頑張らせている構成。2段目の構造効率が飛び抜けて良い印象。小型ロケットでは上段になるほど、細かいものの重量の比率が大きくなり、構造効率を取りにくいが、積極的に複合材料を使ったり、細かな軽量化をしているのだろうと想像できる。

総合的に、挑戦している技術レベルは高く、有りものを組み合わせて早く開発しようというよりは新時代のロケットとして良いものを作ろうとしている印象。

初号機打上げ時期が2014年予定が2015年になり、2016年も過ぎているのもそういうチャレンジングなところからだろう。

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