Youtuberはじめた

2020年5月、人生で初めてのヒドイ食あたり(食中毒)で寝込んでいたときに、暇(?)でYoutube見ていたら、遅いけど可能性を感じてYoutuberになってみた。 スマホで撮ってPremiere Proで編集して公開。初めてだったので、ネタ書き出してから動画完成まで8時間超かかった。Youtuberが大変だっていうのは本当だったし、自分の話し方がプロの話し手より下手だと痛感した。(編集するとかなりマシに見えてしまう)

メディア

ここ数年取材されることが多い。細かなものを含めると少なくても週に1度とかは受けている。まともに受けると、日時調整・事前質問確認、取材、後日内容確認、と3段階あって、結構大変。自分では全部は出来ないので広報とか秘書の方に手伝ってもらってなんとかなっている。また、この前NHKの報道に取材を受けたが、準備から実際の取材に数時間かかるんだけど使われるのは数秒。この立場の人が話しているというエビデンス作りにしか使われない。 既存メディアの取材にいくら時間を使っても、深い話は出来ない。初めて取材受けるところなんか、1~2時間の取材ではとてもディープな話は出来ない。一般受けする鉄板ネタや「ホリエモン」について話すことで終わってしまう。3時間分ぐらいは何も見ずに話す鉄板ネタ持っているので、時間に合わせてその組み換えでイイカンジに済ませている。脳みそを使わないので楽でいいけど、やってるこっちは面白くない。講演も慣れすぎて緊張しなくてアドレナリンが全く出ない。

教育系Youtuberの可能性

をとても感じている。大学の初等レベルぐらいまでなら数年でYoutubeに高品質な知識提供プラットホーム完成してしまいそう。ヨビノリとかタダヨビとかオリエンタルラジオ中田さんとか海外のサイエンス系のYoutube見ていて感じた。 様々なマニアックな解説動画が数万再生、数十万再生される時代。有名人なら100万再生超える。 リアルな講演だと1回で50人、100人、200人ぐらいにしかアプローチ出来ない。年間10回も20回もやっても数千人にしかアプローチ出来ない。時間も限られる。

ブログの影響

論文とか書くのは人類の知識の巨塔を建てる作業の一員になるのだろうが、現世に影響を与えるのはよっぽど大変。 一方、マニアックな記事なはずだが、noteの方に書いている記事は数万ビュー行って、業界の人にも広く読まれた。この影響はそこそこあった。この前、政府の小委員会の委員として参加したけど、記事の方向性を前提の内容になっている(と思っている) 人類貢献だと論文。現世社会に貢献だと事業実施。現世のニッチな人たちにはブログ。現世の一般向けだとYoutube。当たり前だけど身にしみて理解をした。 本当はYoutubeにロケットの大学講座レベルの動画シリーズを作りたいが、半年~1年ぐらい暇が出来ないといけないので、しばらくは出来なさそう。気分転換になるぐらいに一般人を宇宙沼に引き込む活動したい。

冬季ロケット射場としての北海道大樹町

「寒い時期だとロケット打上げ出来ないでしょう」 「雪が多くて大変でしょう」 何度も何度も言われた。北海道大樹町でロケット打上げをやろうとしているっていう中、いろいろな人に説明してきたけど、ブログに書いておく。   (きちんと対策すれば)大丈夫だと。

気温の比較

海外の寒冷地にあるロケット射場と年間気温の比較をしてみる。
北海道大樹町とアラスカにあるコディアック打上げ基地、スウェーデンのエスレンジの比較
米国アラスカにあるコディアック打上げ基地(今はPacific Spaceport Complex – Alaska (PSCA)と改名済み)とスウェーデンにあるエスレンジを比較している。 コディアックは既に軌道投入するロケットの打上げ実績が複数ある射場で、現在は地元公社が運営しているようだ。アラスカ海流は温かいのかコディアックは冬でもそこまで寒くないことがわかる。 エスレンジはヨーロッパの観測ロケットを数多く上げている射場。毎年数回、多くて10回以上の打上げが行われている。エスレンジ打上げ実績を見ても夏季冬季関係なく打上げを行っている。
北海道大樹町とカザフスタンのバイコヌール宇宙基地、ロシアのプレセツク宇宙基地
カザフスタンのバイコヌール宇宙基地とロシアのプレセツク宇宙基地を比較してみた。 バイコヌールは人類初の人工衛星スプートニク、人類初の有人宇宙飛行を行ったガガーリンを打上げた射場で、現在でもソユーズロケットで宇宙飛行士が宇宙に行くための重要な宇宙基地。真冬でも関係なくバカスカ打ち上げは行われている。 プレセツク宇宙基地はソ連によって長らく秘密にされていた射場で、これまでに1500機以上のロケット打上げが行われていたようだ。多いときでは年間50回以上の打上げがされていた、とんでもない場所。 寒冷地であることはロケット打上げ出来ない理由には全くならないことが分かる。  

晴天率の比較

雪ばっかりのイメージを崩してみる。
晴天率の比較として日照時間を比較
「十勝晴れ」という言葉がある。十勝地方は冬になると晴れている日がとても多い。気温は低いが、ずっと雪が降るということは少ない。一旦積もった雪は融けないけど・・・ 冬場晴れていて乾燥している東京と比較しても冬季の日照時間は同程度。 同じ北海道であっても札幌は雪によって日照時間が少ない。雪が多いイメージの石川県金沢市と比較すると日照時間は倍程度になることもわかる。

対策

寒冷地作業で一番気を使うのは「水が0℃で凍る」こと。消火用に水は使えない。コンプレッサーなどの機械は水抜きをしないとすぐに詰まったり壊れたりする。もちろん屋外の水道なんて使えない。屋内で施行したもので水分を含んでいるものを外に持っていくと中に氷が発生して詰まったり色んなトラブルを起こす。 もう少し高尚な話も付け加えておくと、スペースシャトルのチャレンジャー事故のようにOリングの低温特性のように材料選定時に気温を考えて試験するものはする。モノを動かす・滑らすときに多用するグリスやオイルも低温対応のものを使わないとすぐに固まってしまう。市販のモーターを何も考えずに寒い外で使おうとするとグリスが粘土やワックスぐらいに固まってしまって動かないなんてこともある。

結論

対策さえすれば、寒いところからのロケット打上げ世界中に多くの実績があり可能。日照時間の長い北海道大樹町は良い場所である。 日本人に有名なのが種子島とかアメリカのフロリダのイメージなので寒いのダメなイメージがあるが、寒冷地から打ち上がるロケットも世界的にはとても多い。

ロケット射場としての串本町と大樹町の比較

和歌山県串本町が民間ロケットの射場として決まったというニュースになった。私達は北海道の大樹町にいる関係で気になるので、ポジショントークにならないように事実だけをまとめてみる。

ロケットの射場として調整が必要になってくるのは地面以外では、航空、貨物船、漁業になってくる。それぞれを調べてみた。

航空:https://skyvector.com/

海上交通:https://www.marinetraffic.com/

漁業:http://globalfishingwatch.org/map/

それぞれについては縮尺は合わせて図にした。

航空については航空機の航路になっている線を表示。航路の多さがそのまま飛行機の多さでは無いがおおよその相関はある。海上交通については1年間の交通量をヒートマップで表示。漁業についての表示は信頼性がかなり薄いがGlobal Fishing Watchで公開されている漁船の多さを表示。とくにGlobal Fishing Watchについては沿岸漁業がほとんど反映されていなく、大型漁船のみ反映されているので要注意。

和歌山県串本町

上から航空、海上交通、漁業1年の前半、後半

 

 

北海道大樹町

上から航空、海上交通、漁業1年の前半、後半

種子島・内之浦

上から航空、海上交通、漁業1年の前半、後半

Vector Space研究(その2)

前の記事(Vector Space研究)を書いたら流れでVector社のCEOからこんな意見が。

ふむふむ、比推力(Isp)を1段目300秒、2段目340秒出ていると主張しているのか。これは前提が違ってた。

今回も良し悪しみたいな「お気持ち」的なものは抜きにして、物理現象だけを考えていく。プロピレン/LOXのロケットエンジンのIspについての考察はそこまでしていなかったので、NASA CEAによって算出した。ちなみにノズルでの凍結流で計算している。

1つ目は1段目エンジンを想定して、ノズル出口圧力を0.7気圧になるようなノズル膨張比で、燃焼圧毎・O/F毎の真空中比推力(Isp vac)を出している。2つ目は2段目エンジンを想定して、ノズル膨張比を仮に30とした時のIsp vacをNASA CEAから出してグラフ化した。

燃焼圧がいくつか不明だが、1段目の低膨張比ノズルでの真空中比推力(Isp vac)が300秒、2段目の高膨張比ノズルでのIsp vacが340秒というのは燃焼効率やノズル効率が100%という理想的な値でもギリギリの値である。
実際には95%効率達成できればかなりレベル高いものである。現実的には、ガス押し式で燃焼圧2.0MPa程度として285秒、323秒程度が運用段階の現実的な数字になってくると思われる。

Vector社の言うIspで設計成立させる構造効率

Vector社の言うとおり300秒、340秒という理論値なIspが達成されていると仮定して、どれほどの構造効率なら軌道投入可能になるのか考えてみると、構造効率90%、85%で達成可能となる。Vector社はこのようなロケットを考えているのだろう。

これはガス押し式の構造効率としては極端に異常に高いが、他のポンプ式のロケットではこの程度の構造効率は達成しているので、計算上は成り立っている。実現はかなり厳しそう。

95%効率のIspと高い構造効率

Vector社のIspをそのまま受け入れるのは微妙なので、燃焼効率とノズル効率をあわせて95%(これは商用ロケットでやっとの思いでなんとかギリギリ達成される値)を用いると、構造効率と先ほどと同じと仮定してみると、全備重量が17.2トンと1.7倍程度まで膨らんでしまう。おそらくこれだとエンジンから考え直しになると思われる。

95%効率のIspともう少し低い構造効率

構造効率が90%、85%というのは小型ロケットとしては高すぎるので、構造効率が1段目87%まで下がったとして(ガス押し式だとまだ非現実的だが)考えてみると、全備重量が30トン程度と3倍に膨らむ。しかし構造重量を考えると現実的になってきた。このぐらい現実的になると、なんとか飛びそうと思える。

 

まとめ

正直、前の記事で考えたIsp程度しか実現しないのでは?と考えているが、最大限Vector社の意見を取り入れて改めて考えてみた。やはり物理現象から計算していくと実現性に色々と壁があることには変わらない。ロケットは一般的に、Ispと構造効率が変わると大幅にロケットの構成が変わってしまう。特に小型ロケットは構造で数十kg増加すると全体大きさが極端に増えてしまうところが難しい。

自分から半径3mの中では、ロケットのサイジングの検討の甘さからシステムがどんどん変わっていってアレすることを「Fireflyする」と言っているので、Vector社にはそうならないように頑張ってもらいたい。

Vector社のロケットはどのように公言している数字が実現されていくのか、はたまた変更に次ぐ変更があるのか、今後が楽しみ。

 

 

Vector Space研究

Vector Space Systemsというベンチャー企業がある。最近日本語記事でも取り上げられている。
https://news.mynavi.jp/article/20170509-vector_r/
https://news.mynavi.jp/article/20170203-a427/

Credit: Vector Space Systems

うちのライバルになり得る会社なので、創業当時から注意深く調べている。
やりたいことに対してロケットの大きさ等、物理的にあまりに無茶苦茶なので、誰かが厳しく指摘するか、まぁみんな気づくでしょうと思っていた。
最近ニュースになったり営業活動活発なため、日本でも中央の人たちが無視出来なくなってきている状況になっている。

ここでは資金面や協業などに気を取られず、純粋な物理面だけ良し悪し抜きで考える。
(そんな説明を今後、あるところでするつもりだけど、クローズドな場なので先にブログに公開しておく)

計算方法

手元にロケットのサイジングを行なう自作のpythonコードがある。コードがやっていることは多段ロケットをツォルコフスキーの式から必要⊿Vになるようなロケットの大きさを考えてくれるというもの。

以前公開したものを改良しているが、基本的に同じ。最適値探索のために単純なラグランジェの未定乗数法から拘束条件付きで最適値探してくれる方法に変更しているぐらい。

前提

Vector社は2種類のロケットを発表している。
・Vector-R
・Vector-H
Vector-Rは色々考えてもかなり厳しいので、比較すると実現可能に見えるVector-Hロケットを考える。

かなりVector社に都合が良いような前提で考えていく。実際には細々色々悪い方向に行きがちだけど、コンセプトベースなのでポジティブに考えていく。
2017年12月現在公開されているスペックを元に考える。

・高度450kmの太陽同期軌道にペイロード75kgを輸送する
・推進剤は液体酸素とAdvanced Propylene、何を指しているか不明だがメタン以外の蒸気圧の高めの炭化水素系推進剤
・8.7トンの重量(おそらく推進剤込みの全備重量)
・エンジン1段目 2.2トンエンジン6基=13.2トンf
・エンジン2段目 360kgf
・残渣推薬はほとんどなし、フェアリングなどは30kgと超々軽量に作れたとする

ホームページには軌道にペイロード160kgとあるが、射点緯度によって⊿Vが異なるので仮定がブレるのでSSOで考える。ここでは必要⊿Vを9.6km/sとする。本当は10km/s以上欲しいが、重力損失など少ないとして楽観的に考える。

pressure fed、つまりガス押し方式の場合、通常燃焼圧力を取れないこととノズル効率を上げれないことからIspが低い。また、タンクに加圧する圧力が大きくなるのでタンクが重く構造効率を上げれない。

エンジンの比推力(Isp)や構造効率が公開されていないので何通りか考えてみる。
ここではIsp(vacuum)を2通り「1段目220秒、2段目260秒」、「1段目290秒、2段目310秒」、構造効率を「1段目90%、2段目85%」「1段目95%、2段目90%」で考える。

ちなみにIspの低い方でもガス押し式としては楽観値。高い方はポンプで昇圧したような高いもの。構造効率に関しても低い方でもH-2ロケットと同等程度、小型ロケットとしては軽量構造なロケットラボ社と同程度、高め構造効率に関してはSpaceXのFalcon9と同程度という小型ロケットでは達成不可能な現代技術が達成しうるロケットの極限値。

1.ガス押しのIsp、構造効率高め

必要⊿Vが9600m/sに届かない状況で軌道投入できてない。この⊿Vでも全備重量1161トンになってしまった。全く成立していない。公開データの中から楽観的に考えたが全然ダメ。Ispはガス押し式ではあげようが無いので、構造効率を夢のような数字に上げたものを考えてみる。

2.ガス押しのIsp、構造効率を夢のような数字に

⊿Vが9600m/sで軌道投入は可能。しかし全備重量が34トン。Vector社が公開している8.6トンとはかけ離れている。Ispはそんなに上がるものでは無いが仕方がないのでIspを上げたものを考えてみる。

3.ガス押しでは不可能な高いIsp、構造効率高め

Ispが高いだけあって⊿Vは9600m/sで軌道投入は可能。しかし全備重量16トン。これには問題があって、2段目の構造重量が125kgになっている。75kgのものを運ぶ構造とエンジン重量合わせて125kgというのは製造不可能なので拘束条件として2段目の構造重量に制限(構造屋さんが頑張って超軽く250kgで作れたとする)を設ける。

4.ガス押しでは不可能な高いIsp、構造効率高めで2段目に構造制限あり

軌道投入は可能で、全備重量は20トンになった。公表されている8.6トンとはかけ離れている問題点はあるが、この辺りがギリギリ現実的な開発ターゲットになってくるだろう。

 

5.公表データにするために無理やり高いIspと夢のような構造効率

全備重量8.6トンという公表データに合わせるように数字を作ると、高いIspと現実離れした構造効率にすると計算上あり得る。おそらくVector社はこんな計算をしていると予測される。

まとめ

Vector社のコンセプトは物理計算上かなりの無理がある。下記のことをすると現実的になってくるだろう。

・現状のロケットエンジンのような低い燃焼圧をやめる
・ポンプ使用のロケットタンク程度にタンク構造を軽くして構造効率を上げる
・他の商用ロケット程度の高い燃焼効率
・残渣推薬のほとんど出ない絶妙な推薬流量調整
・世界最高レベルの構造設計

とにかく技術的には今のコンセプトからは大きな要素変更があるだろう。その後どうビジネスを成り立たせようとするのか期待して注目していく。