一般運動量理論と翼素理論によるプロペラ設計

配布url(xlsxファイル):http://db.tt/F3LzFUP

配布url(xlsファイル):http://db.tt/IfiIKOZ

一般運動量理論と翼素理論による最適プロペラ設計ツール

※右側の任意の空力特性の部分がバクがありそうです。かなりパワーと推力が大きな値が出ます。1週間のうちに直します。ご迷惑おかけします。

※[追記]空力特性の部分の計算間違いだった部分は直しました。しかし空力テーブルの部分の数字が実際と異なるために出力パワーも推力もかなり変な値が出ます。空力特性の部分の数字は当てにしないで下さい。時間ができ次第大きく修正します。

すごく簡単な説明

入力パワー[W]もしくは推力[N]と飛行速度、プロペラの半径などを入れるだけで

その条件下で、一番性能が良いプロペラの形が出てくる。

その最適プロペラを他の飛行状態のときの必要入力パワー[W]、推力[N]、プロペラ効率も計算可能。

前置き

ツイッターでプロペラ設計の話で出ていて興味をもったのが始まり。

人力飛行機を設計していた当時からやってみたいと思いつつ、人に任せていたプロペラ設計。

気象条件や飛行状態を変えたときに推力や必要パワーがどの程度になるかの資料もソフトウェアも手元になくて、ちょっと気になったときに調べる手段がないということに不便を感じた。

簡易なものなら世の中にソフトとして落ちてるものかと思いきや、全然無い。

すぐ見つかるものとしてはJAVAPROPとかXRoter(連絡すれば貰えるらしい)がある。しかしかゆいところに手が届かない。拡張性もなく不便。

世の中に無いなら作ればいいじゃん!と思い立ち、プロペラ設計ツールとしてエクセルシートを作ってみた。

設計ツールとしてのコンセプト

  • 基本的に自分が使いやすいように
  • その上で誰でも使えて、改変、拡張がしやすいようにわかりやすい構成にした
  • 計算方法は参考にした本の通り
  • 誰でも理解できるように+拡張しやすいようにマクロ・VBAを使用しない
  • 揚力係数、抗力係数の読み取りに欠点があるが、一手間かければプリセットのレイノルズ数やDAE51以外の翼型でも設計できるようにした

 

もし人に見てもらう用途でなく完全に自分用だったら

エクセルなんて使わずに何かプログラミング言語で書いてたはず。

Matlabやその派生のScilab,Octaveでプログラム書く方が早く便利で良い設計ツールが作れる。

もしくは製作日数が少し増えるが、C系やPythonなどのプログラミング言語で書く方が夢が広がる。

エクセルだとしてもVBA使わないとやりたいことができなさすぎる。

あんまり時間もないのに作りたい衝動にかられて急ぎで作ってみたというのが本音。

本を読んで理解0.5日。エクセルシート作成1.5日、このブログ記事とエクセルシートに説明を書く1.5日ぐらいの作業量でした。

愚痴はいいとして、あえてエクセル初心者でも使えるようにしてあります。

欠点
  • プロペラ開始点が固定されていて変更できない
  • プロペラの途中での翼型変更ができない
  • エクセル表を簡単にするために揚力係数、抗力係数を滑らかに読み込めないので微妙に最適じゃない
  • プリセットはDAE51という翼型の解析データを入れている。他の翼型を使いたい場合解析データを入れないといけない。
  • あくまで近似計算なので、この方法だとこういう結果になるってだけで、他の近似方法や計算方法だと結果は異なる。この計算が簡単な部類みたい

じゃあこれ使えるのか?

実際のプロペラの設計での問題点を列挙する

  • プロペラにはスパーを通す必要がある

途中で翼型を変更することに対応していないので

根本だけ翼厚の厚い翼型を使いたいというニーズには対応できない。

対策としては根本付近の揚力も抗力も小さいので適当(良い感じという意味)な翼型(GEMINIとか)を使ってスパーが入るように翼型を変えてやるなどがある。

  • プロペラのハブ部分の大きさとプロペラの始まる位置を好きなように変えたい

プロペラの始まる位置も半径の10%の部分からと固定してしまっている。

したがって変更はできない

  • DAE51以外の翼型で設計したい

DAE51Cl,DAE51Cdの表を更新すれば他の翼型で設計できる

  • プロペラ端が無い

Betzの条件からペラ端は丸くすれば良いことがわかっているらしい

  • 模型飛行機用のプロペラに使えない
  • 条件を大きく変えるとすぐに#N/Aが出てくる

レイノルズ数が対応していないために#N/Aが出てきてしまうのでDAE51Cl,DAE51Cdの表のレイノルズ数の部分を幅広く置いてやれば計算できるようになる。例えば、低レイノルズ数側は10000から始めているが、もっと低い5000とか1000に変えて、翼型解析ソフトからの値を元の値から置き換えてやると良い。

条件によっては様々な変数がスパン方向に対してガタガタになるが、これもDAE51Cl,DAE51Cdの表のレイノルズ数の部分を使っているレイノルズ数のところで細かく刻むように表に置くと改善する。

実際の設計になると不便なところがある。したがって必要な部分は自分で拡張してもらうか、これを参考に新しく作り直す必要がある。プロペラの特性を調べるための技術・知識の閾値を下げるために作っているので、そのつもりで使って下さい。

原理的なもの

プロペラの損失エネルギーを最小にするのはプロペラによって作られるねじ状の渦面が変形しないというBetzの条件が満たされるとき、つまり固定翼の場合の楕円翼のときと同じ条件。

ここまでが一般運動量理論。もしくは揚力線理論ともいうかも。

これに翼素理論という大げさな名前のついた、揚抗比最大になるように迎え角を調整すると良いよっていう理論を合わせたものが原理。

このエクセルシートは欠陥品でこの翼素理論部分の情報(つまり迎え角)を手動で入れないといけない。

 

以下やっつけ文章なこのエクセルシートの使い方(気が向いたら丁寧に書き直す)

シート構成

  • インターフェース
  • グラフ
  • 最適形状
  • 空力特性
  • DAE51Cl
  • DAR51Cd
  • DAE51LDratio
  • DAE5151optDLratio
  • 0.1
  • 0.3
  • ・・・以下数字が続く

 

シート説明

インターフェイス

値を変更して良い場所はインプットのところと定数のところ

右のペラ半径とブレード数は変更もできるが、初めは左と同じになるようにしている。

動粘性係数は空気密度と粘性係数から計算されるようになっている。

[一番重要なところ]

左側の無次元移流速度ζの値変更

パワーを決めたらパワー係数のところを見て、右側の値と左側の値が一致させる

すると最適プロペラでの推力がアウトプットに出てくる

推力を決めたら推力係数のところを見て、右側の値と左側の値が一致させる

すると最適プロペラでのパワーがアウトプットに出てくる

一致させたら最適なプロペラが設計されたことになる。

 

最適形状

※迎角αだけは手動で入力しないといけない!

コード長、ピッチ角を出力する

αはインプットのところで入力した揚力係数から表引きで読み込まれるか、もしくはその位置での局所レイノルズ数から最大揚抗比になる迎角を自動で入力されると形状抗力に関しても最適なプロペラが得られる。しかし、揚抗比の表から補間しなくてはならず、エクセルでVBA使わず実装すると少しだけ複雑になる。

ここでは自分の勉強用+誰でも理解できるようにする目的で作成したので簡単な構造になるようにここでは排除した。

本当に自分用に設計ソフト作るなら絶対にエクセルのでは作らないし、エクセル縛りがあってもマクロ・VBAを使う。しかしマクロやVBAを使うと誰でも理解できるという目的と合致しない。

そのため手動で値を入力する。

抗力の表から中途半端な値を補間せずに表引きで抗力係数を出している。したがって抗力係数の値がなめらかにならない。

ここで誤差がでる。

 

空力特性

最適形状のシートからコード長、ピッチ角の値を受け取って、

インターフェイスのところの条件で空力特性を出力する。

具体的には干渉係数を計算して、その干渉係数を元に回転面に対する角度φとブレードに当たる流速Wと無次元化した移流速度ζを出力。そのφ・W・ζを元に干渉係数を再計算する。この再計算を5回繰り返す。

最初に入力するζ(ゼータ)の値によって収束するか決まる。

0~0.5程度に収まるはず。

ゼータのグラフを見てそこに近い値を入れると1回目~5回目の値がそろってくるのでだいたいそろったらOK

5回収束計算させたのち、単位長さ当たりの推力とトルクを出力する。

これはインターフェイスシートの一番下にグラフで置いている。

 

DAE51Cl

レイノルズ数と迎角それぞれパラメータを振って揚力係数を表にしたもの

XFLR5などで出力させた値を貼り付けて表にしたもの

表の大きさ(A1:P32)を変えずにここのレイノルズ数の振り分けを変えても動く。

Reの分布が均等である必要はない。

ペラ根のレイノルズ数以下の値を作っておかないと計算されないので注意

上限は別にどうでもいい。

使われるところで細かく表があると正確になる。

DAE51Cd

clと同じ

DAE51LDratio

うえの二つの表から揚抗比を表にしたもの

この表自体の値はどこでも使用していない

インターフェイスの揚力係数はここで最大揚抗比になる迎角での揚力係数になるようにし、迎角もそれに合わせると最適プロペラになる

色づけは最大揚抗比のところを便宜上つけただけ。

DAE51optLDratio

各レイノルズ数で最大の揚抗比になる迎角をまとめたもの

これも特に使っていない。自分が見やすいように置いておいただけ

0.1,0.3,0.5,,,etc

XFLR5から出力された各レイノルズ数での出力をした

他の場所で使用しているものではない。

このように表を出しておいて使っているという参考までに。

 

拡張するならなにをするか?

  • エクセルのソルバを使って最適なプロペラは何かがわかるようにする
  • 翼型解析のデータの表を大きくして、低レイノルズ数側から刻み幅を細かくする
  • DAE51以外の翼型解析データの表を作って翼型をインターフェイスの部分から変えれるようにする
  • Reと迎角αから揚力係数Clなどが補間されて正確な値になるようにする
  • アドバンスなこととしてαが自動的に選ばれるように簡単な収束計算を入れる

 

参考文献

小池勝 『流体機械工学』 (機械系教科書シリーズ) コロナ社 2009年

計算方法は全て上記の参考文献を元にした。

原理から途中式、設計手順まで詳しく書いてあるので、何度か読めばすぐに理解できるはず。

具体例まで載っているので自分で組んでから検算も可能で非常に有用な本である。

本の特徴として揚力の発生原理を複素速度ポテンシャルの説明からブラジウスの公式、クッタ・ジューコフスキーの定理まで丁寧に解説されている。逆に言えば流体力学や航空力学の基礎を他の本である程度理解していないと読み始めるのが難しいかもしれない。

他の特徴として、珍しく低レイノルズ数領域での翼の空力特性の実験データの説明がある。

プロペラ以外も風車も同様に設計できるように書いてあるので風車の設計にも使えるだろう。

しかし3次元翼の揚力線理論の計算部分はプラントルの積分公式を解くのが難しいとしている。対象とする読者のレベルを考えてのことだと思うが、数値計算する場合は収束計算で解くと説明されているのは個人的には残念。プラントルの積分公式を解こうと思うとフーリエ級数展開と行列計算が入ってくるのでしょうがないかなとも思う。

 

小木曽 望, 内海 智仁, 室津 義定: “低レイノルズ数域で作動するプロペラブレードの形状最適化”, 日本航空宇宙学会論文集, Vol. 50 (2002), pp.458-465

http://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsass/50/586/50_458/_article/-char/ja

原理などはこの論文の緒論の部分も参考になる。配布のエクセルシートはここでいうAdkins とLiebeckの方法になる。

この論文は3次元パネル法を使って必要パワーが最小になるようなプロペラを設計しようとしている。

3次元パネル法を使うことによって効率が良くなったとあるが、迎角の調整を気合いでがんばれば十分エクセルシートの手法でも戦えるはず。

原田正志:“低レイノルズ数プロペラの設計法”,宇宙航空研究開発機構研究開発報告 JAXA-RR-06-032, 1-13, 2007-03

http://ci.nii.ac.jp/naid/110006946798

渦法と言われる方法での設計方法。配布エクセルシートの方法だと循環の分布は最適になっていて誘導抗力に相当するものは最小になっているが、必要パワー最小になるようにはなっていない。渦法だと必要パワー最小になるように設計できるのが特徴。プロペラの根本が太くなりがちなので製品を見れば設計方法の違いがわかる。

非線形の最適化問題になるので製作しにくいプロペラが出力されるのが問題とか書かれるけど、どうなんでしょう。

根本はどうせペラスパーが入らないから翼型を変えるか

↓ここのサイトが原田さんの渦法に関しては詳しいです。

http://mechon.jugem.jp/?cid=1

高沢金吾, 外立政隆, 野中修:”低レイノルズ数域のプロペラ風洞試験”,航空宇宙技術研究所報告 TR-1071, 1990-06, pp.29-

http://airex.tksc.jaxa.jp/pl/dr/NALTR1071000

JAXAが統合する前の航空研(NAL)だったころの論文。BASICでAdkinsとLiebeckの方法でのプロペラ設計を実装している付録で載っているのが貴重。その方法での設計法の説明が載っているので読む価値あり。おそらく『流体機械工学』に載っている設計法の元ネタはこれ。個人的には必見だと思う。

あとは日本語の論文を元に参考文献にのっている英語論文を当たってみるといいのかも。

リンク

風車はプロペラの一種なので計算方法についてはほぼ同じ。風車についての理論的概略がすばらしい形でまとまっていた

Hiroshi Imamura Web Page~風車ノート~

http://homepage3.nifty.com/chacocham/Wind_Note/note/note_004.htm

XFLR5での安定性解析

XFLR5のver6から安定性解析ができるようになった。

XFLR5の安定性についての解説pdfは一番下

人力飛行機の設計にはそこそこ使えるかな、と思っている。

なにより飛行機の理解が促進される点が大きいと思う。

飛行機の挙動自体は解析で出た値の通りに出るわけではなく、

胴体を含めた時に空力の見積もりができない、慣性の見積もりが甘い、弾性変形がある、近似が正確でない、

製作誤差がある、風の入力がステップ入力になり得ないetc…

とにかく沢山の不確定要素がある。

UAVの研究をしているところだと各見積もりから計算方法までの方法論の研究をしてたりするみたい。

作りたい(作った)機体の開ループ応答や根軌跡がわかるのは面白いけど、細かく設計しようと思うと、

飛行実績のある機体と比較対象を作って安定寄りor不安定寄りを判断して設計するのがいい。

もっと良いのは自分で運動方程式をプログラムなりエクセルなりで書いて挙動解析してみることだと思う。

XFLR5の安定性解析はあくまで他の機能のオプションという感じが現状。断然便利なのが良いところ。

下に参考になりそうな本置いておく。

個人的にはあんまりオススメじゃないんだけど、手に入れやすくて安い本だとこれしか無いからしょうがない。

あとは勉強するならwikipediaとか良い感じ

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A3%9B%E8%A1%8C%E6%A9%9F%E3%81%AE%E5%AE%89%E5%AE%9A

模型飛行機作りたい人には安定性解析はばっちり使えると思う。

使ってみての解説もどきは次回更新においておくとして、

XFLR5の公式に置いてある安定性についてのドキュメントがすごくわかりやすくまとまっていたので日本語に翻訳してみた。

公式サイトにも置いてくれーって頼んだのでそのうち置かれる日がくるかと。

何か反響があれば他のドキュメントも翻訳していこうかと睨んでます。

http://dl.dropbox.com/u/3968380/ja_XFLR5_and_Stability_analysis.pdf

[追記]11.1.24

@dynamicsoar さんに翻訳文をreviewしてもらって誤訳・わかりにくい日本語を数箇所修正しました。

[/追記終了]

鳥人間で使う薬品等の安全管理

人力飛行機を作ってる人が何人か見てくれるブログになったのでうざいだろうけど少し啓蒙活動を。

言いたいことは

・接着によく使うエポキシ樹脂の主剤のビスフェノールAなどは体に影響があるんじゃないかと言われている

・エポ作業のときは汚れていい長袖長ズボンの服に着替えて手袋を必ずする。

・カーボンの粉末はできるだけ吸わない方がいい

・刺激物を使う作業が多いから換気を常に心がける

・MSDS(化学物質安全性データシート)を誰でも見られるように印刷して作業場に置いておく

・対策をすれば怖くない、対策しないと危ない

各物質のMSDSはググれば出てくるし、どのMSDSでも大丈夫だから見ておくといい。

特にエポキシ樹脂関係

こういう安全管理の話って1年やそこらで忘れられていくので定期的に誰かが言わないといけないよね。

管理する方も言う方もめんどくさいからやりたがらないけど

↓↓↓↓↓↓↓twitterで話したまとめ↓↓↓↓↓↓↓

http://togetter.com/li/73612

(ブログとtwitterはリンクさせないつもりだったのにな・・・

カナダの人力はばたき機

先日鳥人間コンテスト2010の放送があった。

昔所属していたサークルがディスタンス部門で優勝。

OBなんで全く関係ない人間だけれど、嬉しい限り。

そんな鳥コンの放送日にして知った@kazuhito さんのつぶやきで知った人力はばたき機があるってニュースですごくビックリした。

Human-Powered Ornithopter(HPO)っていう言葉も初見だった。

カナダの学生チームが人力のはばたき機を作ってはばたき時間19秒、距離145mのフライトに成功した、というもの。

ただし、自力離陸ではない。車で牽引してもらい、離陸後19秒間羽ばたき続けられたという記録。

羽ばたきは揚力を生む動作じゃなくて、推力を生むためのものなので正直わかりにくいが、高度・速度の低下なしで19秒間いられたのは羽ばたいていたから。

現在FAIに認証してもらうための申請をしているところ。機体はこれ以上飛ばすことなく、博物館で展示予定らしい。

他のニュースでいうと

http://www.afpbb.com/article/environment-science-it/science-technology/2760340/6245152

http://www.youtube.com/watch?v=xyusanywv5g

公式としては

http://hpo.ornithopter.net/

ここに置いてあるOverViewのpdfが面白かったし、この記事の元ネタはそれ。

youtubeにチャンネルもあって動画がまとまっている

写真はflickrに上げられている

同じくflickrに非常に興味深い写真が山のように。

諸元は

機体名 Snowbird
空虚重量 43.5kg
総重量 114.3kg
スパン 32m
翼面積 29.6m2
揚抗比 20.9(設計機速時)
必要パワー 620W
羽ばたき振動数 0.65Hz
製作期間 4年
製作費用 $200,000

製作はカナダのトロント大学の学生たち。チーフエンジニア兼プロジェクトマネージャー兼パイロットで博士課程のTodd Reichertがリーダーやってるみたい。

製作には20人の学部・修士の学生と10人の交換留学生で作ったらしい。

スパン、翼面積は日本でよく使われる長距離を狙う人力飛行機によくある領域。

空虚重量はそこそこ飛ぶ人力飛行機の中では少し重めの領域。

最初に諸元見たときにプロペラ機を見たかと思ったぐらい。

パイロットが70.8kgと少し(いや、かなり)重め。

身長が176cmにしてももう少し絞れそうな気がするけど、設計とプロマネも兼任してるしすごい。

パイロットやるために8kgのダイエットと1年間のトレーニングをしたっていうんだから、がんばりはハンパ無い。

ダイダロス型などのプロペラの人力飛行機と比較するつつ特徴を書き出す

全体として

hpo assembly 2hpo flight 3hpo flight 4hpo pilot readyhpo pilot enteringhpo pilot pushhpo fuselage with logoshpo on runway

  • プロペラ無し

はばたき機って言ってるんだから当たり前だけど、揚力を得るために羽ばたいているのではない。プロペラの推力のかわりとして羽ばたいている。

  • 機速7m/s

FAIに認定してもらうための資料のフライトログによると、車で牽引してもらって対気速度7m/sで離陸、高度3mになった時点で牽引ロープを外して羽ばたきスタート。20秒程度羽ばたいている間少し遅くなっているものの高度の低下なし。運動エネルギーと位置エネルギーの総量ははばたきの間ほとんど変化無し。単なる滑空とは明らかに違うのがわかる。

主翼

hpo wing structure 2hpo assembly 3hpo wing structure 1hpo wing structure 3hpo construction 2hpo construction 5hpo construction 1hpo construction 3

  • 主翼の外側の部分(うちの方言でD翼)で上半角・後退角がついてる
  • 翼端にレイクド・ウイングチップみたいな変な翼がついてる

これこそ羽ばたき機に必要なものだと思うけど、どういう理由で後退角やウイングチップをつけてるのかわからない。

  • かなりの高翼

翼を地面に付けないようにというのと、ロール安定を取るためか?

  • キングポスト付きのフライングワイヤー・ランディングワイヤー有り

これはダイダロス型からの設計っぽい。翼根のあたりの剛性と安全率が欲しいのか?

  • 主翼の翼型

ダイダロスに使われてたDAEシリーズではなさそう。DAEに比べて翼厚大きくてキャンバーが小さい。無駄なものが付いてない羽ばたき機にしては滑空比が小さいことから、揚抗比を上げるための翼というよりも、失速しにくさと製作精度に細かいこと言わない翼型にしていると思う。もっと妄想を進めると、剛性を高めるために翼端まで主桁とリアスパーを太いまま通すために性能無視で翼厚を大きいものを選んでる、と考えることも出来る。

  • 主翼リブの発泡材

スタイロではなさそう。白い色だけだと何か判断できない

  • 主翼リブに1/4リブ

前縁上側だけ覆うようなリブがついている。前縁材の形状保持のためだと思われる。大きな方のリブとは素材が違うっぽい(違うのは色だけかも)。

  • ストリンガーがついてない

ストリンガーがついてる写真が一枚も無いんですけど、、、かなり衝撃を受けた

  • 桁全体

真空引きをしている写真があるからウェット?と思ったがスポンサーにここがあることからドライのプリプレグだと思う。ピールクロスで樹脂を少し抜いて使ってるっぽい。東北大方式か?

  • リアスパーやブレーシングワイヤーなど

ここらへんはダイダロスと同じ方式を使っているが、途中で終わりではなく、翼端までリアスパーとブレーシングワイヤーがついている。ねじり剛性はかなり注意深く設計してそう。

  • 翼端の構造

よくわからない!

尾翼と尾翼までのパイプ

hpo assembly 1hpo construction 7

  • コクピットフレームの背中のCFRPパイプが胴体パイプに一本だけ接続

一本しかないとパッと見、危ないんじゃないかと心配になる(笑)

  • コクピットフレームから胴体パイプに前後にワイヤーを貼っている

ゴッサマー・コンドルとかからの設計かな?動画を見るとわかるが、ワイヤーにしているせいで胴体パイプの剛性不足が気になってしまう

  • 胴体パイプが短く、安定を取るために尾翼の面積が大きい

静安定を取るために尾翼面積が大きいが、動安定はダイダロスなどより低そう。水平尾翼が大きいためにはばたきのたびに水平尾翼がたわんでいる。画像を見ると水平尾翼の桁の径はΦ60程度ありそうなのに水平尾翼まで羽ばたいている。CFRPの剛性をもっとうまく使えば、水平尾翼が羽ばたかない程度に小さくできると思う。が、動安定を減らすようにと、尾翼を地面と接触させないために敢えてやっているのかも?

  • 垂直・水平尾翼は人力飛行機にありがちなオールフライングテール

人力飛行機だとごくごく当たり前の方式。バルサリブでスタイロ前縁材方式は珍しいかも。ストリンガーが発泡剤に見えないこともない、すごく大きいです。後縁はバルサじゃない木材っぽい。もしくはバルサにラッカー塗ってるか。UDのカーボンシートを2列に貼って補強してる。

  • やたらとケブラー繊維使ってる

胴体パイプやリアスパ周りなどにやたらとケブラー繊維使ってる。スポンサーにケブラー卸してる会社があるからか。重量増を少なくしてがっちり作ろうとしてて、こういうところに設計思想みえるなと思う

  • FBW

サーボが見えるからフライバイワイヤーのようだ。胴体の剛性がないためと、研究としては再現性の良さのために使っている?

駆動とフェアリング

img_5247img_5240hpo fuselage plug 2hpo fuselage plughpo fuselage on runway

  • rawingbike

rawingbikeという会社が作ってる自転車の方式。ボートを漕ぐみたいにして翼を引っ張っている。ペダルのスライド部分に動滑車の滑車側にヒモを付ける。軸側に翼に渡すヒモを付ける。動滑車使うのがポイント

  • ケブラー繊維で引っ張っている

ケブラー大活躍

  • 出力620W

一般成人男性が2時間出し続ける出力は100W強~200W弱、アスリートで300W。30分出し続けられる出力は一般成人男性で200W強、アスリートで300W強。ただし人間は1分未満の短時間なら出力を上げられる。一般成人男性で600Wを30秒、アスリートで600Wを1分出すことが出来る。(NASAのBioastronautics report,1964より)

この短時間の大出力を狙って設計されている。

だからこの羽ばたき機でどこまでも行けるというのは間違いで、どんなに頑張っても1分未満しか飛べない。しかも自力離陸はまず不可能。

  • ウェイトパワーレイシオ

人力機だとウェイトパワーレイシオ(パイロットの体重あたりの出力)が大事。プロペラの低速機(7m/s程度)だと3~4、高速機(8m/s以上)で4~6。つまり体重60kgのパイロットだと200W~360Wぐらいになる。

しかしこの「Snow Bird」は9。

  • 車輪は後輪だけ

後輪にしか車輪がついていない。前輪に相当する部分には出っ張りがついていて、おそらくソリみたいに滑っている

  • フェアリングはGFRPの積層

ノーズから下面側の部分と頭付近の部分は骨組み付きGFRP積層でできている。フェアリングは発泡スチロールで作る物だという先入観があるから積層の写真を見て理解できなかった。クラッシュの可能性を考えて長く使えるように考えてあるのだろう。グライダーの設計屋さんの発想な感じ。このフェアリングのせいで重量増になってるだろうが、水の上を飛ぶので無ければ普通は発砲スチロールは使わないんだなと。

重量とテストフライト

  • 機体重量43.5kg

駆動のシステムが極めてシンプルな割に重い。胴体パイプの剛性が低いからそこには重量注いでないはずだし、コクピットフレームと主翼の1次構造材をかなり頑丈に作ってあると思われる。

  • 組み立て人数

主翼を機械を使って持ち上げることによって、5人程度で組み上げることができる

  • グラウンドクルー

主翼をすらないように高翼に設計してあるのと、フェアリングの前の部分をどっしり地面につけるために着地してからもかなり安定している。そのためにグランドクルーがほとんどいらないようになっている。

感想

この人たちのこのプロジェクトの前のものがこれ

公式サイトはhttp://www.ornithopter.net/index_e.html

エンジン付きの羽ばたき機。推力は羽ばたきだけから得られていると思うと、結構すごいけど、、、

世界オモシロ動画みたいにしかならないのがもったいない。

ここから優雅な人力羽ばたき機にプロジェクト変更と実際に活動できたっていうのは驚愕。

しかも学生チーム!

人力の羽ばたき機の製作に関して

これだけ製作過程が公開されていれば、リバースエンジニアリングは可能だろう。

羽ばたきで推力を生む方法の勉強ができれば、製作技術的には日本の鳥人間の中で十分に確立されているものばかりなので困難は少なそう。Snowbirdはお金かかりすぎだけど、プロペラ機ぐらいの製作費で十分可能なはず。

来年以降の鳥人間コンテストが万が一なくなるようなことがあったら、人力羽ばたき機作ってくれる学生チームないかなぁ。もしくは目標を失ってる社会人チームとか。。。

重心移動じゃない羽ばたき機が日本でも見てみたいなぁ。作られることがあったら、写真撮りに行きたい!!

Impossible is nothing

強度計算brazierの式とか

人力飛行機なお話。

1次構造材のCFRPの桁の強度設計周りの話。

ネット上で探そうとしてもなかなか見つからない円筒パイプの局部座屈に関する式brazierの式のメモ。

(あんまりまともに受け止めすぎると良いことは起きない記事。

個人的にはもう一生目にしないだろうと思ってたこれをこれからやりたいことに使う用事ができたからブログにしてみた。

brazierの式

パイプに曲げがかかると凸面に引っ張り、凹面に圧縮の力がかかる。FRPは圧縮強度が弱いから圧縮側から壊れてそれが全体に広まっていく。このときパイプの径が大きくて厚さが薄いと圧縮ではなく局部座屈によって破断する。その局部座屈の破断応力を式にしたのがbrazierさんが出した下の式

f:id:ina111:20100917010236p:image

\(\sigma_{bc}\):局部座屈応力
\(E_{x},E_{y}\):パイプの軸方向をx、その直交方向をyとしたときの弾性率
\(\nu_{x},\nu_{y}\):x、y方向のポアソン比
\(t\):円筒パイプの厚さ
\(D\):円筒の直径

重要なのは座屈応力(壊れるときの力)が\(\frac{D}{t}\)に反比例しているということ。

スカイスポーツシンポジウムの発表によると実験値と比較して修正係数0.5をかけると良く合うらしい。((これも積層構成や製作精度によるからどこまで信頼するかって話になるけど、、、

0.5をかけた式は↓

f:id:ina111:20100917010237p:image

さらに、\(\frac{D}{t}\)が小さい=桁径が小さくて、肉厚のときは破断応力はある程度の値で一定になるらしい

以上からわかることは

桁は局所座屈応力と曲げの破断応力の小さい方から壊れるので

  • 大直径にすると断面二次モーメントかせげて曲げによる応力が減るから薄肉で軽く作れる!やったね!って思えるけどこんどは局部座屈が怖くなるよ
  • 桁径やply構成を自由に変えられるなら上の式から出てくる局部座屈応力と曲げの破断応力を一致させると重量的に良い桁になるよ

 

【追記】よく考えたら言いたかったことが言えてなかったので

具体例として

パイプのx,yについて等方的だと仮定して、すごく怪しげな値を入れてみる

\(E_x,E_y =3.5*10^{11}\)[Pa]

\(\nu_x,\nu_y = 0.3\)

修正係数0.5(下の式に相当)

を当てはめてD/tの関数としてグラフにすると

f:id:ina111:20100919000357p:image

ここで直線は曲げ強度の参考値

HOPECさんの資料を参考した(http://www.hopec.jp/frppipe/data/index.html

本当は曲げじゃなくて凹面の圧縮による破断じゃないかと思ってるけど値の幅が広い曲げ強度を持ってきた。

だいたいここの間の応力で折れるという直線。

自分の経験ではΦ90のply数7~10で先のHOPECのサイトの圧縮強度の真ん中ぐらいに入ってる。

Φが小さくてply数が少ないと全然この範囲に入ってない。違ってくるのは最大主応力説で考えてるからだと思ってる。

考察(感想)

D/tが100以上になってくると曲げによる破断応力より局部座屈応力が低くなってくる可能性がある。

人力飛行機の主桁の中央部にはΦ100~130[mm]のCFRPパイプが使われることが多い。このとき厚さt=1.0[mm]以下の桁を設計するときは曲げ強度以外も怖くなってくる。

中央部以外に端部では曲げ応力が中央部に比べてかからないからって薄くしがち。4~5plyにするとD/tは100以上になりそう。端部付近の強度不足で折れてるところはほとんど見たこと無いから関係ないだろうけど!

製作精度高いしply構成的に修正係数こんなに低くないしと思えばこの記事自体関係ないけど!!

ってか自分の設計の時にはbrazierの式も余裕だったし全然関係なかったけど!!

 

追記

ソースが心配になってきたから少し調べた.読んでないけど参考文献として

L. G. Brazier On the Flexure of Thin Cylindrical Shells and Other “Thin” Sections

Proceedings of the Royal Society of London. Series A

Vol. 116, No. 773 (Sep. 1, 1927), pp. 104-114

http://www.jstor.org/pss/94717