先日鳥人間コンテスト2010の放送があった。
昔所属していたサークルがディスタンス部門で優勝。
OBなんで全く関係ない人間だけれど、嬉しい限り。
そんな鳥コンの放送日にして知った@kazuhito さんのつぶやきで知った人力はばたき機があるってニュースですごくビックリした。
Human-Powered Ornithopter(HPO)っていう言葉も初見だった。
カナダの学生チームが人力のはばたき機を作ってはばたき時間19秒、距離145mのフライトに成功した、というもの。
ただし、自力離陸ではない。車で牽引してもらい、離陸後19秒間羽ばたき続けられたという記録。
羽ばたきは揚力を生む動作じゃなくて、推力を生むためのものなので正直わかりにくいが、高度・速度の低下なしで19秒間いられたのは羽ばたいていたから。
現在FAIに認証してもらうための申請をしているところ。機体はこれ以上飛ばすことなく、博物館で展示予定らしい。
他のニュースでいうと
http://www.afpbb.com/article/environment-science-it/science-technology/2760340/6245152
http://www.youtube.com/watch?v=xyusanywv5g
公式としては
ここに置いてあるOverViewのpdfが面白かったし、この記事の元ネタはそれ。
youtubeにチャンネルもあって動画がまとまっている
写真はflickrに上げられている
同じくflickrに非常に興味深い写真が山のように。
諸元は
機体名 | Snowbird |
空虚重量 | 43.5kg |
総重量 | 114.3kg |
スパン | 32m |
翼面積 | 29.6m2 |
揚抗比 | 20.9(設計機速時) |
必要パワー | 620W |
羽ばたき振動数 | 0.65Hz |
製作期間 | 4年 |
製作費用 | $200,000 |
製作はカナダのトロント大学の学生たち。チーフエンジニア兼プロジェクトマネージャー兼パイロットで博士課程のTodd Reichertがリーダーやってるみたい。
製作には20人の学部・修士の学生と10人の交換留学生で作ったらしい。
スパン、翼面積は日本でよく使われる長距離を狙う人力飛行機によくある領域。
空虚重量はそこそこ飛ぶ人力飛行機の中では少し重めの領域。
最初に諸元見たときにプロペラ機を見たかと思ったぐらい。
パイロットが70.8kgと少し(いや、かなり)重め。
身長が176cmにしてももう少し絞れそうな気がするけど、設計とプロマネも兼任してるしすごい。
パイロットやるために8kgのダイエットと1年間のトレーニングをしたっていうんだから、がんばりはハンパ無い。
ダイダロス型などのプロペラの人力飛行機と比較するつつ特徴を書き出す
全体として
- プロペラ無し
はばたき機って言ってるんだから当たり前だけど、揚力を得るために羽ばたいているのではない。プロペラの推力のかわりとして羽ばたいている。
- 機速7m/s
FAIに認定してもらうための資料のフライトログによると、車で牽引してもらって対気速度7m/sで離陸、高度3mになった時点で牽引ロープを外して羽ばたきスタート。20秒程度羽ばたいている間少し遅くなっているものの高度の低下なし。運動エネルギーと位置エネルギーの総量ははばたきの間ほとんど変化無し。単なる滑空とは明らかに違うのがわかる。
主翼
- 主翼の外側の部分(うちの方言でD翼)で上半角・後退角がついてる
- 翼端にレイクド・ウイングチップみたいな変な翼がついてる
これこそ羽ばたき機に必要なものだと思うけど、どういう理由で後退角やウイングチップをつけてるのかわからない。
- かなりの高翼
翼を地面に付けないようにというのと、ロール安定を取るためか?
- キングポスト付きのフライングワイヤー・ランディングワイヤー有り
これはダイダロス型からの設計っぽい。翼根のあたりの剛性と安全率が欲しいのか?
- 主翼の翼型
ダイダロスに使われてたDAEシリーズではなさそう。DAEに比べて翼厚大きくてキャンバーが小さい。無駄なものが付いてない羽ばたき機にしては滑空比が小さいことから、揚抗比を上げるための翼というよりも、失速しにくさと製作精度に細かいこと言わない翼型にしていると思う。もっと妄想を進めると、剛性を高めるために翼端まで主桁とリアスパーを太いまま通すために性能無視で翼厚を大きいものを選んでる、と考えることも出来る。
- 主翼リブの発泡材
スタイロではなさそう。白い色だけだと何か判断できない
- 主翼リブに1/4リブ
前縁上側だけ覆うようなリブがついている。前縁材の形状保持のためだと思われる。大きな方のリブとは素材が違うっぽい(違うのは色だけかも)。
- ストリンガーがついてない
ストリンガーがついてる写真が一枚も無いんですけど、、、かなり衝撃を受けた
- 桁全体
真空引きをしている写真があるからウェット?と思ったがスポンサーにここがあることからドライのプリプレグだと思う。ピールクロスで樹脂を少し抜いて使ってるっぽい。東北大方式か?
- リアスパーやブレーシングワイヤーなど
ここらへんはダイダロスと同じ方式を使っているが、途中で終わりではなく、翼端までリアスパーとブレーシングワイヤーがついている。ねじり剛性はかなり注意深く設計してそう。
- 翼端の構造
よくわからない!
尾翼と尾翼までのパイプ
- コクピットフレームの背中のCFRPパイプが胴体パイプに一本だけ接続
一本しかないとパッと見、危ないんじゃないかと心配になる(笑)
- コクピットフレームから胴体パイプに前後にワイヤーを貼っている
ゴッサマー・コンドルとかからの設計かな?動画を見るとわかるが、ワイヤーにしているせいで胴体パイプの剛性不足が気になってしまう
- 胴体パイプが短く、安定を取るために尾翼の面積が大きい
静安定を取るために尾翼面積が大きいが、動安定はダイダロスなどより低そう。水平尾翼が大きいためにはばたきのたびに水平尾翼がたわんでいる。画像を見ると水平尾翼の桁の径はΦ60程度ありそうなのに水平尾翼まで羽ばたいている。CFRPの剛性をもっとうまく使えば、水平尾翼が羽ばたかない程度に小さくできると思う。が、動安定を減らすようにと、尾翼を地面と接触させないために敢えてやっているのかも?
- 垂直・水平尾翼は人力飛行機にありがちなオールフライングテール
人力飛行機だとごくごく当たり前の方式。バルサリブでスタイロ前縁材方式は珍しいかも。ストリンガーが発泡剤に見えないこともない、すごく大きいです。後縁はバルサじゃない木材っぽい。もしくはバルサにラッカー塗ってるか。UDのカーボンシートを2列に貼って補強してる。
- やたらとケブラー繊維使ってる
胴体パイプやリアスパ周りなどにやたらとケブラー繊維使ってる。スポンサーにケブラー卸してる会社があるからか。重量増を少なくしてがっちり作ろうとしてて、こういうところに設計思想みえるなと思う
- FBW
サーボが見えるからフライバイワイヤーのようだ。胴体の剛性がないためと、研究としては再現性の良さのために使っている?
駆動とフェアリング
- rawingbike
rawingbikeという会社が作ってる自転車の方式。ボートを漕ぐみたいにして翼を引っ張っている。ペダルのスライド部分に動滑車の滑車側にヒモを付ける。軸側に翼に渡すヒモを付ける。動滑車使うのがポイント
- ケブラー繊維で引っ張っている
ケブラー大活躍
- 出力620W
一般成人男性が2時間出し続ける出力は100W強~200W弱、アスリートで300W。30分出し続けられる出力は一般成人男性で200W強、アスリートで300W強。ただし人間は1分未満の短時間なら出力を上げられる。一般成人男性で600Wを30秒、アスリートで600Wを1分出すことが出来る。(NASAのBioastronautics report,1964より)
この短時間の大出力を狙って設計されている。
だからこの羽ばたき機でどこまでも行けるというのは間違いで、どんなに頑張っても1分未満しか飛べない。しかも自力離陸はまず不可能。
- ウェイトパワーレイシオ
人力機だとウェイトパワーレイシオ(パイロットの体重あたりの出力)が大事。プロペラの低速機(7m/s程度)だと3~4、高速機(8m/s以上)で4~6。つまり体重60kgのパイロットだと200W~360Wぐらいになる。
しかしこの「Snow Bird」は9。
- 車輪は後輪だけ
後輪にしか車輪がついていない。前輪に相当する部分には出っ張りがついていて、おそらくソリみたいに滑っている
- フェアリングはGFRPの積層
ノーズから下面側の部分と頭付近の部分は骨組み付きGFRP積層でできている。フェアリングは発泡スチロールで作る物だという先入観があるから積層の写真を見て理解できなかった。クラッシュの可能性を考えて長く使えるように考えてあるのだろう。グライダーの設計屋さんの発想な感じ。このフェアリングのせいで重量増になってるだろうが、水の上を飛ぶので無ければ普通は発砲スチロールは使わないんだなと。
重量とテストフライト
- 機体重量43.5kg
駆動のシステムが極めてシンプルな割に重い。胴体パイプの剛性が低いからそこには重量注いでないはずだし、コクピットフレームと主翼の1次構造材をかなり頑丈に作ってあると思われる。
- 組み立て人数
主翼を機械を使って持ち上げることによって、5人程度で組み上げることができる
- グラウンドクルー
主翼をすらないように高翼に設計してあるのと、フェアリングの前の部分をどっしり地面につけるために着地してからもかなり安定している。そのためにグランドクルーがほとんどいらないようになっている。
感想
この人たちのこのプロジェクトの前のものがこれ
公式サイトはhttp://www.ornithopter.net/index_e.html
エンジン付きの羽ばたき機。推力は羽ばたきだけから得られていると思うと、結構すごいけど、、、
世界オモシロ動画みたいにしかならないのがもったいない。
ここから優雅な人力羽ばたき機にプロジェクト変更と実際に活動できたっていうのは驚愕。
しかも学生チーム!
人力の羽ばたき機の製作に関して
これだけ製作過程が公開されていれば、リバースエンジニアリングは可能だろう。
羽ばたきで推力を生む方法の勉強ができれば、製作技術的には日本の鳥人間の中で十分に確立されているものばかりなので困難は少なそう。Snowbirdはお金かかりすぎだけど、プロペラ機ぐらいの製作費で十分可能なはず。
来年以降の鳥人間コンテストが万が一なくなるようなことがあったら、人力羽ばたき機作ってくれる学生チームないかなぁ。もしくは目標を失ってる社会人チームとか。。。
重心移動じゃない羽ばたき機が日本でも見てみたいなぁ。作られることがあったら、写真撮りに行きたい!!